印刷燦燦
「夏草や兵どもが夢の跡」

副理事長、教育・労務・環境事業委員長 飯村 俊幸
飯村印刷株式会社代表取締役社長

 長い日本史の中で戦国時代ほど興味をひかれる時代はない。
 最近では読む本の8割がその時代をテーマとした小説である。そんな私の好みを知ってか出入りの本屋さんが次から次へと新刊を届けてくれるので、未読の本の山を前に如何したものかと思いあぐねる昨今なのである。
 ひかれる一番の理由はやはりその時代を生き抜いた人々の精神世界である。今の時代では想像もつかないような精神的にも肉体的にも過酷な状況下で、人は何を心のよすがとして日々宿命に立ち向かって生きたのだろうか。その極限の死生観の根幹を支えていたのは何だったのだろうか。様々な思いを巡らせると興味は尽きることがない。
 そんなわけで史跡巡りはかねてよりの念願である。旧街道、古戦場、城址そして古い町並等日本国中行きたい所は山ほどある。しかし、北海道にいてはなかなかそれもままならない。それでも思い起こせば、今まで城址は武田信玄の躑躅ヶ崎館、九戸城、世田谷城、北の庄城、越前朝倉氏の一乗谷、小谷城、郡上八幡城、岐阜城、金沢城、安土城、岡山城、名古屋城、小田原城、長浜城、熊本城そして日本最古の木造建築の丸岡城、古戦場は衣川、川中島、姉川そして関ヶ原などに行くことができた。どの地に佇んでもその土地が記憶している昔日の光景が思い浮かび、自分があたかも壮大なドラマの渦中にいるような気分に浸れる。
 また一昨年は機会があって滋賀県甲賀市を訪れた。言わずと知れた忍者の里である。そう聞いただけで心ときめくものがあるが、市内の土山町は東海道五十三次の宿場町で江戸時代の旅籠が十数軒往時のままの状態で保存されている。まるでタイムスリップしたようである。本陣の16代目を継ぐ女将にいろいろ話を聞いた。先祖は平家だと言って平家蝶の家紋を見せてくれたが、未だに平家源氏を引きずって生きているなんてさすがに本州の田舎は保守的である。実はこの土山町に我が家の先祖の墓がある。旅籠、養蚕、茶の栽培等で生計を立てていたらしいが、商売はあまり得手でなかったようで失敗して北海道に流れて来たと聞き及んでいる。自分と同じ血の人間がこの地で一所懸命生きていたのかと思うと不思議と懐かしい思いにとらわれる。
 これからも心の原風景を求めて道外のあちこちへ足を伸ばしてみたいと思っている。

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