第1回「心に響く…北のエピソード」入賞作品決まる

 第1回「心に響く…北のエピソード」事業が、「心に響く…北のエピソード」実行委員会(北海道印刷工業組合、(社)日本グラフィックサービス工業会北海道支部、(株)サクマ)の主催で実施され、6月1日から8月31日まで作品募集が行われ、303点の作品応募があり、1次審査、本審査と2度にわたる審査が行われ、最優秀賞・北海道知事賞1点、一般・学生部門の優秀賞1点、佳作3点、生徒・児童部門の優秀賞1点、佳作3点の入賞作品9点と入選作品91点を選考し、10月18日に札幌プリンスホテルにおいて表彰式が開催された。
 この事業は、健全な日本文化を築くには、日本の文化、歴史の基盤である日本語を正しく理解し、「先人からの学習、教訓等」を学ぶことが大事であり、それは活字文化が持つ豊かな表現力が「人づくり、地域づくり」を可能にすると考え、その実現への一つとして、道民の皆様に印刷との関わりを持っていただくための活動として、表現力の豊かな日本語による「心に響く…北のエピソード」作品を北海道において募集し、表彰を行い、作品集として発表することにより道民文化の質的向上の一助にしたいと同時に活字離れを防止し、印刷文化のさらなる発展を期して、北海道の後援を得て実施した。
 また、入賞・入選作品は、作品集として取りまとめ、道内の公共図書館・公民館図書室に寄贈した。
 入賞者の氏名・作品名は次のとおり。

最優秀賞・北海道知事賞
  (受賞者)   (作品名)   (住 所)
  山 内 ひとみ   心をつないだスイカ   芦別市
 
〔一般・学生部門〕
優秀賞        
  (受賞者)   (作品名)   (住 所)
  藤 田 陽 子   心暖かなマチ、穂別に拍手   美唄市
佳作        
  (受賞者)   (作品名)   (住 所)
  佐 藤 大 樹     札幌市
佳作        
  (受賞者)   (作品名)   (住 所)
  戸 城 恵美子   じゃがいもがくれた旅気分   北見市
佳作        
  (受賞者)   (作品名)   (住 所)
  中 山 敬 倫   恩返し   新ひだか町
 
〔生徒・児童部門〕
優秀賞        
  (受賞者)   (作品名)   (学 校)
  冨 岡 郁 美   笑顔で伝わる   北海道室蘭清水丘高等学校
佳作        
  (受賞者)   (作品名)   (学 校)
  板 垣 知 美   「また来なさい」のひとこと   北海道浜頓別高等学校
佳作        
  (受賞者)   (作品名)   (学 校)
  杉 谷 祐 磨   僕を救った魔法の一言   北海道釧路工業高等学校
       
  (受賞者)   (作品名)   (学 校)
  村 岡   周   徒競走でT君と走れたこと   苫小牧市立拓勇小学校

最優秀賞・北海道知事賞

心をつないだスイカ

山 内 ひとみ

  町のあちこちの店先に、たくさんのスイカが並びはじめると、私はあの時の出来事を思い出し、胸が熱くなり涙があふれる。桜が散って、野山の木々は、いっせいに緑の芽が吹き出していた。
 8回の抗がん剤投与、辛く苦しかったその治療も、あと1度。副作用が治まり血液の状態が安定するのを待っての、つかの間の外泊。そしてまた病院へと戻る。何度繰り返しただろうか。私の病室は、8人部屋、みんな抗がん剤と闘っている。外泊から戻ると空いていた私の足元のベッドには、新しい人がいる。歳は70歳くらいだろうか。隣のベッドの人が
 「なんか仙台の方から来たらしいよ、話もしない、笑顔もないよ、苦しそうだよ、ずっとだよ」と言った。
 病院の1日は、とにかく辛くて長い。天井をながめ身の上話をし、夢や希望を語り合った。お昼ご飯が終わると少しほっとする時間、1人の彼女が「あぁ、スイカ食べたいね。甘くて、さわさわとしたスイカさぁ」。点滴の管がゆれ、ああ、私も…。
 「じゃあ私が買って来ようか」体の状態が落ち着いている私は、500メートル程離れたスーパーへ出掛ける事にした。みんなの喜ぶ顔が見たくて、胸の傷の痛さも忘れて大きなスイカを抱えて帰った。8等分にカットすると、私の病室は、初夏の香りいっぱいになった。足元のベッドの彼女は、食事も摂れなくなっていて病状も悪化していた。
 「ねえスイカ食べてみる?」声をかけると、こっくりとうなずいた。種をとり小さく切って、スプーンにのせ口へと運んでやると、しずかに目をとじ、すうっと涙を流した。絞り出すような声で「ありがとう。生き返った気がする」と優しい目をして微笑んだ。
 それから間もなく彼女は個室へと移って行った。廊下を隔てた近い所に居るのに会う事は出来ず、心配は募る一方だった。1週間程過ぎたある日の午後、面会が許された。私の顔を目で追って、細くなった両手で何かしら形を作った。私は「スイカ? 食べたい?」と言った。彼女は首を横に振り、再び私の胸に両手で作ったハートをゆっくりと押しあてた。そして自分の胸へもって行った。
 両手で、力の限り精一杯、「あなたから私へ心を込めた友情にありがとう」と示したにちがいなかった。私は泣きながら、私の胸で大きなハートマークを作って彼女の胸へと返した。
 大きなスイカの小さなかけらが人の心に温もりと、友情を与えてくれた。
 これから3度目の夏は過ぎて行く。

(主婦・58歳・芦別市)


BACK