第15回北海道青年印刷人フォーラム 「INSATSU」への飛翔〜感性価値創造の実践〜 |
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(岸) 先ずアイワードの奥山専務から自己紹介をお願いします。 (奥山) 株式会社アイワードの奥山です。私は今、東京支店で仕事をしており、そこでの経験を少し、話をさせていただこうと思っている。 (岸) 奥山専務は東京で数多くの著名なクリエイター、デザイナーと仕事をしているのでその辺の背景や経緯を話をしてほしいと思う。 続いて岡田さんは札幌大同印刷に勤務し、印刷会社に勤めているアートディレクターだが、東京ADC賞というクリエイターの世界では有名な賞を受賞している。JAGDAの新人賞も受賞するという経歴を持っている。 (岡田) 札幌大同印刷株式会社の岡田です。紹介にあったJAGDA新人賞と東京ADC賞で評価を受けた作品を紹介したいと思う。(プロジェクターを使い作品紹介) (岸) ワビサビさんは札幌を拠点に活躍しているアーティストである。1階の展示会場で「6冊のアーティストブック」というイベントを開催している。これは昨年12月、パリ・ルーブル美術館、本年5月、ニューヨークのコンベンションセンターであるジャヴィッツセンターにて開催された「日本で活躍する6人のアーティストと6社の印刷会社とのコラボレション」の国内初展示である。 (工藤“ワビ”) 初めましてワビサビの工藤と (中西“サビ”) 中西です。 (工藤) 2人合せてワビサビという名で仕事をしている。私達は札幌を拠点に広告の仕事をやっている。加えてはグラフィックデザイン、名刺、DMといったものからポスターまで取り扱い、場合によってはCMやトータル的なアートディレクションを日々やっている。 ワビサビを始めて今年で10周年になる。自分達の好きな世界を自分達の好きなように作って行こうと2人で始めた放課後のクラブ活動のようなものである。好きなものを作って行くうちに広告の仕事もアートワークも普段から作る工程や考え方は全く変わらないので、普段やっている仕事と上手く結び付けをしながら、クライアントを自分に置き換えていろいろなものを作って行き徐々にその作品が実際に広告などに上手く置き換えられ、自分達のやりたいことをお客様のニーズに適合させて行くというやり方をして来た気がする。札幌のファッションビルの広告から全国的にはナイキなどいろいろなジャンルの仕事をして来ている。我々がプライベートで作ったものの売り込みも日々している。(プロジェクターを使い作品紹介) (岸) 自己紹介が終ったところで核心に入って行きたい。今日のパネルディスカッションのテーマとして掲げているのは、紙媒体がこれからどうなって行くのかということを4人の方々に語っていただこうと考えている。私たちが仕事としている印刷は紙という媒体を使っているが、少子高齢化、環境の問題ということもある。先ずワビサビさんに話をしてもらいたいと思う。クリエイターから見て今までの印刷会社に対する印象や印刷会社に対する要望などを語ってもらいたい。 (工藤) 我々は版下の時代、写植機を打ちながら仕事をやって来たが、デジタルの登場などいろいろなことがあるが基本的にやっていることはあまり変わっていない。初めに覚えて来たこと、紙を媒体としてコミュニケーションを図って行くということは全然変わっていない。私たちは今コンピュータで物を作ることが増えているがアウトプットは紙が主体になっている。こちらで作って印刷会社を通過してお客様のところに届く紙に関しては20年前と全く変わっていない。紙の上でコミュニケーションをするということに関して日々考えているので、時には昔の方法論を使ったり、それから最先端なものを探して行くということで技術的なことに関してはいろいろな進化や変化があると思うが基本的にやって来たことは変わっていないと思っている。 紙を間にして制作者と見る側のコミュニケーションがそこに生まれるというのは、パンフレットやポスターなど、どれをとってもコミュニケーションということのためにある媒体として私は紙を考えている。印刷仕様においては高品位なもの、高品位でなくても良いからスピードを求めるもの、あるいはもっと価格を安くするためのものというように、印刷技術が向上して美しい印刷をするだけでなくいろいろな用途に向けての進化をしていると思う。綺麗なものを刷るための技術、価格を落としたいときの工夫といったようにニーズに応じていろいろな対応がされている真最中ではないかと思う。これはどれをとってもその時の必要性、必然性において応じて選ばれて行くものだと思う。オンデマンドは本当に便利になって使い勝手も良いしクライアントからの利用頻度も割と高くなって来ている。市場に浸透して印刷物の適性が分かって来た今、オンデマンドの価格の安さに対して、言い方は悪いが、それなりの品質という部分で、どこまで紙自体の用途を持って来るか。今までは安いのだからしょうがない、速いからしょうがないで、オンデマンドで済ませるということも勿論あったが、もう少し紙の品質がほしいなどというように、オンデマンドの速さにプラス高品質という部分をどのように加えて行くか。散らばって行った技術をもう少し上手くミックスしながら用途に応じて使って行くということが、印刷側、デザイン側、消費者側からも目を肥やされている最中ではないか。そういった意味では方法論の進化、全てが印刷の見た目の技術レベルアップだけではないかと思う。 紙はパピルスの時代から変わらない媒体なのでコミュニケーションの方法論は変わらないと思う。加えてコミュニケーションということから話して行くと、今まで印刷会社と一緒に仕事をする機会があり、そこに温度差が生じる場合がある。我々クリエイターが作るもの、印刷会社が印刷するもの、最終的には同じものであるが違う。例えばパンフレットを作る中にも私たちが抱えているあるいは伝えたいコミュニケーションと印刷会社が持っているコミュニケーションに対する温度差が生じることがある。私たちはデザインをするのが仕事であり、印刷会社は最終的にパンフレットを印刷することが仕事である。出来上がるものはパンフレットであるが、考え方や認識の仕方が少し違うと感じることがある。安く早くたくさん作らなければならないものにはオンデマンド印刷が今一番適性なのかも知れないが、もう少しその速さに加え、例えば私たちはモノクロの作品が多い。そうした場合オンデマンド印刷ではどうしてもトナー独特のブラックの魅力の無さ、失礼な言い方であるが私たちとしては凄く気になる。ただしある意味印刷会社からするとそれはそんなに気にならないのではないか。ここに書かれている文字は同じだろう。こういうところでちょっとした擦れ違いが生じて来る。 コミュニケーションという話に戻ると書かれた文字情報だけがコミュニケーションなのかというと、私は決してそうではないと思う。それを心地良く読ませる方法やそういう感覚というものは大事にしなければならないときがある。そういったことで印刷をするということとそこに刷られるものを作る私たちのなかに若干の温度差が常に感じられることがある。その辺をお互いに目的をきっちり理解してそれに向けてお互いに話し合ってより良いものを作って行けるような環境になって来ればと思う。その辺が割と疎かになることが多かったような気がする。 (中西) 紙を使うというものが減って来ると結構言われている。それは環境の問題ということもあり減って行くだろうと思う。必要だとか重要なものは残って、良い使われ方をしているもの大事なものは残って行くが、そうでないものは減るという意味で言えば減ってしまうと思う。どうなって行ってほしいかというと、減るという言い方にしてしまうならば良いものを残して減る形になる方が良いのかと思う。 (岸) 奥山専務、今のクリエイターの話を受けながら印刷会社の立場してはどうか。 (奥山) 印刷会社の立場から我々が考えなければならないのは本当に自立した会社になって居られるかどうかということである。印刷業は、お客様から原稿を預かって校正というアリバイを作り、そのアリバイどおりに作って何とかミス無く納めれば、回収できるという商売をやっていた。そんな時代ではもうない。その温度差をワビサビさんは非常に強く感じているはずだと思う。ここを解決しない限り、我々印刷関連業は本当に未来があるのかということを強く思う。紙にインキを付けて情報発信をするという業態自体は無くならないと思うが、印刷業界でない業態が参入して来ている。そういうところが新たに情報発信をするという仕組みを作って来ているわけだから本当に印刷会社が基本となっている印刷物を作り提供して行くということを真面目に取り組んで行かなければならない時代にあるのではないかと思う。多分、岡田さんはそのことを補足してくれるのではないか。 (岡田) 私は入社して15年くらい経つが印刷会社のデザイナーとしてやっていて、丁度ワビサビさんとアイワードさんの中間のような立場というか、社内にクリエイターのいる印刷会社という部分においてはコミュニケーションが取り易いような環境にある。当社の宣伝をするわけではないが、特長は企画を考えるところからコピーを書いて取材をする、それをデザインしてDDPに落として印刷するというところまで一貫して工程を把握して商品を提供できるような会社に居るのでその辺の事情はなかなか見えて来ない部分がある。そういう中で私が作りたい表現したいという部分は社内なので刷り出しを見に行ったりとか印刷の方とコミュニケーションを取って作り出して行けるという部分においては少し立場が違うと思う。業界は非常に厳しいという状況も社内に居てひしひしと伝わって来る部分があるが、これは1デザイナーが解決できるような問題でなく会社や業界全体でどうにかして行かなければならないそういう意識を強く持って行くことが大事だと思う。 (岸) 我々は今まで受注請負産業であるので、原稿が出て来るのを待つ、お客様のところに行って見積もりをさせてくださいとお願いに行っていた。これは勿論営業行為としては当然のことであるし、それが無ければ食べて行けないのでそういう活動を行って来たし、今もしている。明日も明後日も多分する。原稿が出て来るということになると、これが原稿ですと言われるとそこから価格の競争になっている。印刷機が日本国中で溢れていて、日本中の印刷機が稼動したら世界中の印刷物が出来てしまうくらい飽和状態にある。技術の革新ということでオンデマンドの話をしていたが、オンデマンドだ、バリアブルだということになると、また同じことである。皆が皆オンデマンド機を買い出したらまた同じことが起きてしまう。印刷機、輪転機が今飽和しているのと同じことが起きてしまう。であれば何か自分達からものを作り出してそれを市場に出して行く。受注請負でなくこちら側から商品を開発してそれを販売して行く。自分達の技術力、スキルを持って、そこに営業力を注入して行くことが必要である。業界では業態変革という言葉があるが、業態変革というのは正にそこの部分ではないかと思っている。ただ単純に原稿が出て来るのを待つ、見積もりをさせてくださいとお願いをしに行くだけでは、そこで価格の競争が起こってデフレのスパイラルから抜け出せないと考えている。 (奥山) 当社の取り組みを少し話したいと思う。印刷の需要自体が変わって来ているのでどのようなところで商売させてもらうかということを考えながら取り組んで来ている。その基本になるのは、会社概要に記載している経営指針である。当社の事業活動の基本は全てここから始まっている。経営政策の中にパブリックリレーション、非価格競争力、社員共育と書いてあり経営を行う上で重視している。パブリックリレーションは社会との良好な関係を企業がどのように構築するのかを常に考えて行こうということである。非価格競争力は価格ではないところで競争をさせていただくと言うことを眼目に置いている。社員共育は教え込むのではなく社員間で教えられて共に育つということを大事にしている。今日はその中で非価格競争力について話をしたい。製品実例のパンフレットは東京の出版社、求龍堂から出版をされた大型の美術写真集の事例である。写真家はデジタルで非常に高画質の作品を作る作家であり、考えられないような広い色域のカラー作品と真っ黒でマットな作品がある。これがこの方のオリジナル作品である。このオリジナル作品を印刷という方法で表したいということで、出来る印刷会社を探していた。探して、探して何とか出来そうな技術がある。それが7色印刷という方法のようだということでこの作家から直接問い合わせがあった。7色の印刷については解決が出来た。もう1つの真っ黒でマットな作品を印刷することが難題であった。デジタル作った作品は12色などの大判のプリンターで出力するが、その中にマットインキが入っているので非常に深みのある素晴らしい作品が出来ている。印刷会社の方がたくさん居るので分かると思うが真っ黒に印刷するということはインキを重ねるということである。インキを重ねるとどうなるかというと光る。ピカピカに光る。マットインキというのは光を乱反射させてマット感を出す物質が入っている。つまり白くするものである。マットインキを深く、深く印刷すると黒くならないで白くなるという相反する問題である。真っ黒にしようとすればピカピカ光る。マットにしようと思えば白くなって行く。この印刷方法の技術開発は半年掛かってやった。当社にある7色印刷機で一番真っ黒なミレニアンブラックという漆黒の黒というインキを1胴目で印刷する。2胴目ではグレー、3、4、5、6の4胴でこの2色を完全に定着させる。7色目の胴でマットインキを印刷している。マットインキは刷ったまま、一切手を掛けないということである。真っ黒で印刷されたものの上にふりかけを掛けるようにマットインキを印刷する。そうすると黒の下地にさっとマットなインキが載っているので真っ黒でマットなイメージが残ることになる。それを何回も何回もチャレンジした。2つの問題があった。1つはこの3色を分色するという技術開発、要求されている連続階調をどう出すか。真っ黒の中に階調を付けるということである。実際に印刷機でどう再現するか。ドットゲインや印圧の問題など具体的な課題をつぶして行く。こういうものをやらないと実現しないことになる。7色カラーの技術取得をした時に、社内で一定の知見を持っている。こうして真っ黒なマットは当社独自のオリジナル技術として発表し、東京方面では面白いということ興味を持たれている。プロ写真家の作品は今モノトーンが主力になっており、凹版のグラビアで刷ったような深い印刷をオフセットでどう実現するかという話になっている。そういうようなことを出来ないと諦めるのではなくどう遣り上げるのかを、考えて、考えてやって行かないと、プロという印刷業は要らなくなってしまうと考える。 (岸) パンフレットのイグアナはグラビアで刷ったような印刷物だと思う。先ほど打ち合わせをこのメンバーでやっていた時に、奥山専務からいろいろな作品を見せてもらった。独自の技術開発によってクリエイターや市場のニーズに応えて行くという、どちらかというと営業戦略に似たような形だと思うが戦略的な設備の導入をされている。私の印象であるが、印刷会社は上手く組版出来なかったらソフトメーカーのせいとか、上手く動かなかったら印刷機械メーカーのせいとか、そのような人任せ、メーカー任せのようなところが凄く多かったと思う。ここにいる方はもう取り組みをされているかも知れないが、自分達で自分達の持っている設備をどんどんブラッシュアップして行って独自で研究開発をしてそこに市場のニーズに応えて行くというような話を今もらったと思う。工藤さんクリエイターから見て今の話はどうか。 (工藤) この黒、凄いです。先ほど話したが、私たちはモノクロの作品が多いが、黒の再現に非常に満足出来ない。ポスターは殆どがシルク印刷である。シルク印刷で割と私たちがイメージしている黒の厚みや深さみたいなものを作って来た。どうしてもオフセットでは出来ない。ミクロンの世界であるが離れて見てもインクの厚さは感じる。真っ黒でマットな技術開発の話はそういうものを感じさせる。これは驚嘆である。何が凄いかというと困難に飛び込んで行く体質というかそういうことを聞くとモチベーションが上がってくるのでしょうか。難しいことに立ち向かう立ち位置というか、それが凄く分かるような気がする。 私も随分お願いして断られるケースが多い。ここまでですとか。それも掛かる前に無理だ、である。それは多分現状持っている技術力やそういったものがインプットされているだけのことだと思うが、そうではなく、今のように敢えてややこしいことに飛び込んで行くプロフェッショナル意識というか、クリエイターというのは殆どそういうところがある。何か変わったことをやってやろうとか、高めて行くことを一生懸命やっているので、この技術も半年掛かったということであるが、半年掛かろうが何であろうがやってみようというのがクリエイターの意識と印刷の意識が今話を聞いていてフィットした感じがした。 (中西) 東京の方ではプリンティングディレクターが居るというのを聞いたことがある。奥山さんみたいに困難に立ち向かって、いろいろなことを相談に乗ってくれたり提案を出して来たり新しい考え方を教えてもらったりということの、そういう関係を印刷会社と組むことが出来たら良い。札幌の印刷会社と仕事をして今まで一度も私はプリンティングディレクターだと言われた人は居なかった。そういう取り組み方をしてくれる営業の方は何人か居たが、先ほども厳しい意見が出ていたが、押しなべて出来ません、最初から出来ません、それはうちでは無理みたいなことである。そういうことで関係がもっと深まって行けば良いかと思う。 (岸) 岡田さんはどうか。印刷会社に勤めているということもあるので、先ほど中間の立場ということもあったと思うが、今プリンティングディレクターという話も出たし、奥山専務の方から技術開発という話もあったと思うが、現場と営業と両方の間と言ったら変だが、印刷会社の中に居て今の話はどのような印象を受けるか。 (岡田) 私も営業と工場の方と技術的な面も相談するし、凄い技術でないかもしれないが心意気の部分で頑張ってくれたりということがあるのでそういう部分も人というか技術もそうであるが、そういう部分では当社は温かい会社だと思っている。 (岸) 良い会社ですね。大事なことは今ディスカッションをしているがそこに市場のニーズがあるかどうかが凄く大事だと思う。売れもしないようなことを一生懸命やってもどうにもならない。当然開発をして行く時間や経費が無駄になってしまう。そこに市場があるかどうか。その前段のマーケティングが凄く大事だと思う。デザイナーの感性や手法が市場のニーズと技術力を取り持つということが今日のディスカッションの中では出されている。ただ単純にワードだとかエクセルだとかパワーポイントなどで、単純に文字だけがそこに載っていてそれを伝達すれば良いという目的のものであれば、そこにはクリエーションする要素は全く無いと思う。しかし、そこに目を止めてもらう、必ず周知させたい、集客したい、販売をしたいというところに着目されなければならないようなものであれば当然デザイン力が大事になって来る。先ほど岡田さんと話をしていてコストダウンをしなければならないということでポスターの印刷物が減って行っている傾向にあるという話をしていた。折込広告も新聞の購読率がどんどん下がっているので、折込広告という広告物自体が人々に読まれなくなって来ている。そこで費用対効果が得られないからだんだん減ってしまっている。ポスターという観点で言うとデザイナーの人達は思い入れがあり、作りたいものである。 (岡田) 私はデザイナーなのでポスターが紙媒体の中では花形であってほしいという気持ちがある。時代的にはポスターのあり方、存在価値が問われて来ていると思う。先日、富山で行われた世界ポスタートリエンナーレトヤマという世界的なポスターのコンペがあり、昨日その図録が送られて来た。今回で9回目ということであったが、私は今年初めて出品して運良く入選させていただいて図録が送られて来た。それを見ていると物凄くクリエイターのエネルギーが伝わって来る。世界中から4,500点も集まったのである。クリエイターが世界中に居る限り、ポスターは魅力のある媒体として生き残って行くと思う。 (岸) 冒頭、紙媒体の今後みたいなことを言ったが、残る印刷物と残らない印刷物は当然これから先も出てくると思う。残らない印刷物というのは市場のニーズがもう無くなってしまったもの、もうこの印刷物は必要ないというものがどんどん減って無くなってしまうことは仕方のない現象だと思う。我々は印刷業界の人間なので我々がそこで仕事をして生活をしているということであればこの印刷物は残したい、この印刷物は残らなくてはいけないということが我々の口から言わなければならないと強く思っている。そういう代表的なものは私見であるが絵本だと思う。子供に読み聞かせをするというようなものが、デジタル媒体だと少し味気ないと思っている。例えば子供に絵本をあげて、大事に取っておいてその子供にその絵本をあげてこれはおじいちゃん、おばあちゃんが買ってくれた本だということになると、そこには印刷物としてのストーリーがあると思う。先ほど奥山専務と話をしていたときに、恵庭市の取り組みの話があり、凄く良い話であったので紹介してほしい。 (奥山) 当社で、社外報として「北海道の印刷出版文化情報誌」を発行している。10月号の取材を恵庭市にさせてもらった。ブックスタートという制度がある。これは全国の自治体の約3分の1が取り組みをしているそうである。子供が生まれたその子と保護者に自治体が本をプレゼントする制度である。なおかつ絵本の読み聞かせを若いお父さん、お母さんに伝えるということを毎年やっている。このたび図書館の司書の方の話を伺うと、取り組みを始めた頃の方々が就学したという。そうすると全く違うという。何が違うかというと、きちんと授業が成立するというのである。幼児期から本を読み聞かせて、親子の関係が出来ていて、読書率が幼児期から高いので、学ぶということがその子供の体の中にきちんと入っているわけである。これが本(印刷物)の効能ではないかという話を伺うことが出来た。私も全くそうだと思う。もしそういうことが無ければ違うことである。今、2歳児3歳児でも自分でコンピュータを立ち上げられる。そしていろいろなことがやれるわけだがそういう一方的なもの、あるいは何か短絡的なものばかりが幼児期から集中してその子に投入されたとしたらどうなってしまうのかということを考えて行かなければならない。そういう点で本を自分で読むということも必要であるがそれこそ親子の読み聞かせが取り組みとして当たり前のように始まった場合どうなるか。我々が小さかったときあるいは我々の父や母が小さかったとき、我々のおじいちゃん、おばあちゃんが小さかったとき何があったか、夜におじいちゃん、おばあちゃんから伝承があった。「昔あるところにいう」ことを聞かされて、地域の昔話であるとかさまざまなことが伝え語られていた。そしてやってはいけないことやるべきことがきちんと家庭の中で伝えられた。だから我々の父や母、おじいちゃん、おばあちゃんはちょっと我々とは違うのではないかという気がする。そこが我々産業人、特に情報発信をして行く側、文化産業にいる我々の役割というものがあるのではないかと思う。本の効能というのはそんなところにあるのではないかと強く感じた。 (岸) 今、残したい印刷物のキーワードで進めているが、クリエイターの観点から印刷物として残したいものは何か。 (中西) 取って変わっても良いようなものもある。速くて便利なものはどんどん変わって行く。そういうものはインターネットやオンデマンドからもっと電子的なものになって行くと思う。私たちは触れたい生きものだから絶対に紙は無くならないということと同じに印刷物でなければならないものは必ずある。それが今のままで良いかというとそうではなく、残って行くものなのでより良くして行ってほしいし、して行かなければならないと思って作っている。 (工藤) 皆さん、自分が好きな本というのが多分あって、それは残して行きたい紙の類だと思う。その人達それぞれの感性に訴えるもの、感性と一言で言っても非常に巾が広いが、表面的なことだけでなく感情まで入り込んで来るものが残って行くと思う。紙に刷られた文字であろうが絵であろうが写真であろうが感じ方は随分違うと思うが、感性に訴えるもの、それが印刷された紙が残って行くべきものではないか。情報に関してメールのようにスピードを要求されていることもあるし、いろいろな方法論が今後も出て来ると思うが、感性に関しては紙でなければ出来ないものの1つになるような気がする。 (岸) 今インターネットいうキーワードが出たが、インターネットというライフラインに近いようなインフラがもう1つメディアとして現れて来て、便利であったり速かったり、ニュースソースは正にそうである。朝刊を見ているということは朝刊を刷る前の情報しかない。インターネットであれば瞬時に情報が可変されて行くので非常に速くて便利であるので印刷物がどんどん無くなってしまったという対極で議論されるケースが多いが、インターネットの台頭によって無くなってしまった印刷物があるとしたらそれは市場のニーズに合わなくなってしまったということだと思う。そこを追い掛けて行ってもそこには仕事が無いということになる。メディアの対極のような話をしても意味がないと思う。先ほどから言っているオンデマンドなのかオフセットなのかいわゆるインクオンペーパーなのか、トナーオンペーパーなのかというデバイス論である。もう1つはインターネットなのか紙なのかという媒体論は、誰が選ぶのかということは正にお客様が選ぶことであって、お客様が売りたいものがこれであるということであれば、それを見ている人達はどういうメディアを見ているのか、そこに合せて我々はものを作って行くという提案が出来なければ、今後印刷物にしてもインターネットもそうであるが仕事が無くなって行ってしまうのは必然だと思う。先ほどから言っているように原稿を待っているような状況であれば枯渇して行って価格競争の中で飲み込まれて行って何も出来ないということになってしまう。 資料として配付している「INSATSUへの飛翔」という本がある。全日本印刷工業組合連合会のなかの全国青年印刷人協議会という青年部組織が執筆・編集をしたものである。後でじっくり中身を見ていただければと思うが、正に今日ディスカションをしているようなデザイナーやクリエイターの感性の力を使って印刷物、いわゆる紙というメディアを今後どうやって市場に出して行くかというようなことをまとめている本である。1階に展示しているアーティストブック6冊もそういうデザイナーの力で紙というものがどんなふうに面白くなって行くのかということを経済産業省の委託事業として実施した展示会である。正に先ほどから話をしてもらっているが、アイワードさんはそんなことを実験的にどうのこうのでなく市場に対してそういったものをリリースして行く、販売をして行くというような取り組みをしている。東京でたくさんの著名なクリエイターと仕事をしていると思うが東京で仕事をしている状況と札幌の状況との差をどう感じるか。 (奥山) 率直に言って、東京の著名なクリエイターの方々の事務所にお邪魔するともの凄く綺麗である。必ず生の生け花がある。それも少しではなくドカーンとである。何処のところもそうである。なおかつ朝まで働いている。ところが働いていることを一切言わない。我々アマチュアは今日も朝までやった、大変だ苦労しているということをべらべら喋る。一流の方は一切喋らない。きちんとしたオフィスできちんとした対応をしてくれるが、その努力たるや凄い。生半可では絶対に取引出来ないと強く感じながら今商売をしている。プロである。我々のような印刷のアマチュアは駄目である。先ずここから心というか体というか気持ちを入れ替えないと商売出来ないとうのが率直なところである。 もう1つはクリエイターの方々というのは独自のドメインというか、私はこういうことを通して仕事をするというはっきりとしたポリシーを持っている。確かにクライアントを持って仕事をするがその方々自身の強いものを如何に実現するのかということを通してお客様に利益をもたらすということを強く考えている方々ばかりだと思う。やっていることに意味がある。それが意味を成さなくなっているクリエイターの方は残年ながら居なくなってしまっている。ここが非常に怖いと思う。我々印刷会社もそういう方々と仕事をする基礎をしっかりしなければならないと思う。そのためには我社が生き残って行くためにはやれることをどうやれるようになるか。技術開発、自社のネットワークの総力をどう結集して成果物に注ぎ込むのかということしかないと考えながら今取り組んでいる。 (製品事例紹介) F1の写真集であるが、以前は香港で印刷していた。作った半分くらいはヨーロッパに納めていた。かなりの冊数を作るので価格もかなりシビアなものであった。香港でやっているとこだわった印刷が出来ないということで何とか国内でやれるところを探そうという動きなったときに当社と出会った。香港で作ったときは普通の4色のカラーで印刷していた。ただ紙はA1クラスの高級紙を使いグロスのある印刷物であった。これを国内で印刷、製本までやり同じ商品を作るとなるとコストが合わない。そこで我々が考えたのはヨーロッパで使うものなのでヨーロッパのカラー、ジャパンカラーではなくヨーロッパの色にしようということでジャパンカラーのCMYKでないインキを当社独自に選択した。グロスのない紙にグロスを付けようということでA2コートに印刷をしながらグロスを掛けた。部数が多いので元々の紙をA2コートに落としてかつ高濃度の4色プラス水性ニス加工を同時印刷して、香港でやっていたものより見た目の品質を上げるようにした。デザイナーの方はコンテンツを作ることが仕事であるが、それを如何に時間の中で、コストの中で求められている水準まで達成させるかということを考えた写真集である。 写真集の表紙に印刷されているモノクロの写真は70年前のガラス原版が原稿であった。ガラス原版はガラスの板にエマルジョンが塗ってありそれへ写真を写すのである。原版だけが残っているがもうプリントする方法がない。しかし、印刷物を作りたいということで私どものところに持ち込まれた。当社の設備で少し方法論を工夫してデジタル化してネガであったものを可視化させた。したがって入力の方法を全く逆にする。目に見えているものでなくネガであるから反転されたものをポジにして見えるようにする。そういった下ごしらえをしてやるとこのような印刷物が出来た。これも我々高画質のものを扱うことができる設備を持った印刷業のこれからの任務なのだと深く考えてやらせてもらった。 それとは対極であるが、宇宙航空研究開発機構が昨日ロケットを打ち上げて成功したが、そこから発注された、地球の周回衛星がありその衛星が地球の地震や津波などのさまざまな災害の内容をそれぞれの国へ情報提供することをやっている。その事例集である。人口衛星で取得された画像はRAWデータの目に見えない数字だけの0101の集まりである。この0101の集まりがRGBと近赤外の4色で分色されて取得されている。これを全部デジタル処理をして目に見える形にしてRGBだけをデジタル合版するとカラー印刷になる。非常に大きな解像度のカラー画像になるが、この印刷をさせていただいた。今まではRAWからの展開を印刷会社でやったことがなかったようで非常に印刷が良くないものしか作っていなかったが、今回当社のRAWデータの取り扱いの力なども利用してもらい印刷した事例である。 こういうものを、やりたいという要求に応えられるものがまだまだあると思う。後は我々の知恵と工夫に尽きる。それがこれからやって行く課題になる。 (岸) ワビサビさんにも同様の質問をさせてもらいたいと思う。ワビサビさんの場合は札幌を拠点に活躍されているということもあるが東京に行かれる機会も当然多いと思うが、札幌と東京の差はどうか。 (工藤) 先ず感じるのはスピードの違いである。私は霊感があるわけでないが東京に着くといろいろなもののエネルギーとスピードが全然違うような気がする。情報収集、発信のスピードの違いは凄く感じる。北海道は逆におっとりしていると言われるが、それはそれで北海道の特長として良いことだと思うし、ゆったりしたエネルギーを何かのものにして作れれば良いと感じる。向こうは競争が激しいということもあるが兎に角先ほどの話でないが一流の方たちと会って話をすると並大抵のエネルギーではない。日々研究開発、何を自分が出来るのだということに対する取り組み方が本当に並大抵でない。私は行くと凄くモチベーションを上げて帰って来る。そういうエネルギーを貰って帰って来る。技術的なことに大きな差はないとい思うが精神力やあらゆる意味でのトライして行くエネルギーとかを格好付けるわけでないが感じる。 (中西) 印刷業界とデザイン業界の東京とこちらの違いは、東京の印刷会社と直接、仕事はしたことがないが多分思うにあちらにもたくさん印刷会社があって、得意分野みたいなものが各社にあるのではないかと勝手に思っている。スポーツ系の動きのある写真をやらせたらあそこが良いとか得意分野が東京は分かれているのではないかと思っていた。 (岸) 時間に無くなって来たので、結論めいたことは無いがまとめに入りたいと思う。岡田さん印刷業界はこうなったら良いなということがあるか。 (岡田) 紙媒体が少なくなって行くという話が先ほどあったが、結局、私たちデザイナーや印刷会社がきちんと先ほど絵本の話もあったが、絵本のコミュニケーションの能力や捲るという行為だと思うし、紙の魅力というか紙の手触り、臭いを大事にして魅力ある提案をして行くことで紙媒体自体の魅力を上げて行くことが大事だと思う。 (岸) 工藤さんはどうか。 (工藤) 偏った話になるかも知れないが、デザイン代を認めてほしい。露骨な話であるが。私も直接お客さんとやり取りをすると見積もりを出してくれという話になり、印刷代はこれくらいです。高いと言われながらも交渉するが、それにプラス、デザイン料が入って来る、それにあれこれ入って何十万円、そうすると末端のお客さんでさえ印刷代は納得するがデザイン代は納得してくれない。印刷代がこれくらい掛かっているのはしょうがないのでこれは直ぐ払うが、デザイン料はあなたの言い値でしょうみたいなことになる。これは自分の力不足でもあるが逆に印刷会社と組んで仕事をする場合も、例えばパンフレットを作るために一緒にやって行くわけなので印刷代という部分に刷られるもの代、デザイン代というと分かりづらいが、そこに刷るためのものを我々は作っているが、刷られるもの代が正当に換算されていないような気がする。その辺をなんとか上手く手を取り合ってやっていける今後になって行ったら嬉しい。 (岸) 奥山専務、最後に業界に対する何か。 (奥山) さまざまお客様があるが、プロダクションや広告代理店のようなところも我々に対して印刷物を発注してくれる。そこではエンドユーザーに対して一定の金額、いわゆる代理店マージンを乗せて納めている。何故それが出来るのかを考えるに、品質管理、工程管理、納品管理をプロダクションや広告代理店はしているのである。翻って考えると工程管理、品質管理、納期管理が出来ていないということである。これを変えない限り正当な報酬というものには行き付かないということを反省している状況にある。 特に昨年秋からのアメリカ経済の変化は東京を一番直撃しているという感じがある。東京が非常に厳しくなっている。その中でどう残って行くのかを考えると原理、原則に基づいて活動をして行かないと仕事はいただけない。 それに業界は一度印刷する方法を剥奪された経験がある。それは戦争中である。活字は鉄砲の弾に変わった歴史がある。戦争のような平和でない状況があった場合に我々は仕事が出来ない。だから印刷産業は平和産業だと強く思っている。したがって印刷・出版を保障して行くことが我々産業人ではないか。それぞれ個々の印刷会社が残って行くことも大切であるが我が国のために我が地球のためにどう貢献するのかである。500年前にグーテンベルグが作ってくれた近代印刷の手法があったからこそこれだけ人類社会は発達して行った。我々の先人たちが培ってくれた歴史と伝統があるわけだからそのことを引き継いで取り組んで行きたいと思う。9月の「印刷の月」というものを強く意識して頑張って行きたいと思う。 (岸) 時間になったのでこれで締めさせていただく。 |
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