新春経営者研修会
「業態変革の3つのステージ エンドレスに続けよう」
全日本印刷工業組合連合会業態変革推進企画室委員 水 上 光 啓 氏
 新春経営者研修会が、1月10日午後2時45分から札幌市中央区の札幌グランドホテルで、全日本印刷工業組合連合会業態変革推進企画室委員の水上光啓氏(水上印刷株式会社代表取締役・東京)を講師に迎え、「業態変革の3つのステージ エンドレスに続けよう」をテーマに80余名が参加して開催された。
 以下、講演の内容の抜粋を紹介する。   (文責:編集部)

はじめに
水上 光啓氏
 先ほど先生と紹介いただきましたが、先生なんか何処にもいない。あくまでも組合は仲間である。全く対等な仲間である。その仲間が仲間に話すということで、易しいというか逆に裏を返すと難しい話ができない。社会が変化している中で業態変革をして行こうということについて、今日話をしたいと思う。皆さんのお手元にある黄色い本は、私たちが浅野会長の下に3年半に亘ってまとめたものの集大成であるのでその説明をしたいと思う。今日は喜んで北海道に来たので動画をやりたいと思うが、この動画は見たら忘れてほしい。初公開なので動画が上手く動いたら非常に嬉しい。もう2度と公開できないかもしれない。(上映)。音がでませんか。このへんがデジタル化の難しいところである。(上映中止)。私はいつもデジタルとアナログと考える時に最終的にデジタル革命が来るというのは、パソコンがテレビのようにスイッチを入れたらパット動くときが本当の情報革命だと思う。実は先ほどここへ来てテストをした。テストをしたときは動いたのだが、今は声が出ない。音がでないと、私が代読をするとやりにくいので会場係りの人がいま走っている。線が抜けていたそうです。デジタルなんて大体こんなものである。その点アナログは強い。(再上映)
大きな社会の変化

 今、大変雑な画面を見てもらったが、業態変革は兎に角しなければいけない。今、大きな社会の変革が来た。私も今56歳だが、こんなに大きく社会が変化するとは正直いって思ってもいなかった。ふといろいろな身近な変化を時々考えてみると、私が社会人になったときには新宿に百貨店は三越と伊勢丹があった。まさか三越と伊勢丹が一緒になるとは夢にも思わなかった。それも昨年、三越と伊勢丹が合併する。同じ売上げの規模なのに三越は3分の1の評価しかない。対等合併ではなく1対0.34、こんなことって本当にあるのだろうか。まさに社会の変化というのは決して印刷産業だけではなく全ての産業の中で大きな変化が起きているような気がしてならない。私はよく旭山動物園の話をするが、実は私はまだ見に行っていない。本当は今日泊って明日行こうかと思ったが残念ながら今晩帰らなければならない。先月、当社の総務の者が見てきた。旭山動物園に行ったらペンギンが空を飛んでいる。えっ、なんでペンギンが空を飛んでいるの。行った方は分かると思うがペンギンが空を飛んでいる。そんな光景でペンギンを自然に見られる。皆さんの方がよほど承知と思うが旭山動物園は、1994年だと思うが動物が死ぬという事故があり大変な社会問題になり一時は休園に追い込まれた。それが96年に再開したときに、確か初年度26万人の入場者だったと聞いている。それが一昨年には300万人になって、昨年は東京の上野動物園を旭山動物園が抜いたのではないか。そのように一方においては社会の変化を見事に乗り切っているところもある。もう一つ例に出すと私たちの身近な富士フイルムは富士写真フイルムといったのが富士フイルムになって、先日、社長さんの話を聞いたら2000年にはアマチュアフイルムの売上げに占める比率が20%であった。それが2007年にはなんと3%になった。まさに会社挙げて新しい方向にもって行かなければならない。それを立派に新しい方向に持ってきている。やればできる。私たちだってやればできる。是非そういう強い意志のもとに社会が大変革しているから変革しようというのが業態変革である。

Web2.0の社会

 そして非常に辛いのは私たちの印刷産業というのは情報産業としてITに非常に近いということである。私は決してマイナスだけに捉える必要はないと思う。これはプラスに捉えてもいいと思っている。今までも話をしたことがあるかもしれないが、今から40年前にインテルという半導体の会社のゴードンムーアという社長さんがムーアの法則というものを発表して、半導体の性能は1年半で2倍になると言った。今我々のパソコンを見ていればそのぐらいの性能で倍々になっている。1年半で2倍になるということは同じ性能であれば1年半たったら価格は2分の1になる。そして情報を司るITは非常に安くなってきた。社会全体が大きなチープ革命を起こすことによって私たちにも多大なる影響を及ぼしてきた。本当に大変革である。これは決して後戻りしない。私も戻ってほしいと思うが残念ながら戻らないし、もっと進んでいくと思う。だから我々はさらに果敢にチャレンジするしかない。選択肢は率直に言って2つしかないと思う。嫌だが正面から今の社会と向き合う。他所を向いていたい、避けたい。避けて横を向くのか、この選択肢はやはり私が決めるのでなくて皆さん自身が決めることになると思う。今日ここに来て一緒に勉強をしようという仲間である。企業は永続しなければいけないから、大変であるが皆で力を出してITに向かっていこうではありませんか。そして今私たちが直面するこの社会はWeb2.0の社会と言われている。横文字も随分増えてきた。なかなか大変な時代である。このWeb2.0の時代とは一体どんな時代なのだろうか。Web2.0という数字から見ると何か明確な形がありそうであるが何もまだ形がない社会である。この形がないというのも厄介である。Web2.0というのは社会全体の構造のあり方や行動様式などそういうものを全部表してWeb2.0の社会という。今、我々その真只中にいるわけである。

中小印刷業はロングテール

 ではどうしたら良いか。当然新しいビジネスモデルを探していかなければならない。そのような社会の中で印刷はどんなポジションなのだろうか。こんな言葉が一時あったのを覚えていませんか。恐竜に例えて、恐竜の尻尾をロングテールと言ったと思う。恐竜の本体は大きいが尻尾は細い。私ははっきり言って全印工連の仲間はロングテールだと思う。ロングテールで大いに結構だと思う。なぜ良いかというと、それぞれの皆さんがその尻尾でニッチの得意分野の市場を持っている。得意分野のお客さんを持っている。そのニッチの限られた範囲の中で限られた範囲のお客様に限られた範囲の仕事をきちんと提供することによってお客様にもメリットがあって、我々も存在している。印刷は基本的にはロングテールだと考えたいと思う。ロングテールの反対は何だろう。これはショートヘッドという言葉がある。ショートヘッドというのは印刷に例えると、今、はやりのフリーペーパーはこんな感じではないか。このように大別できるような気がする。言うまでもなく私たちが今いる社会はいつでも何処でも物に不自由しなくなった。欲しい物がいつでも手に入る。これも大きな変化である。私たちの子供のころは欲しいし物は手に入らなかった。入ってしまう社会に大変革してきた。物が手に入るということは情報も手に入ってしまう。多数の情報が自由に手に入ってしまう。これも我々の仕事に結び付けて考えてみると決め細かい情報が手に入るようになってきた。一歩落ち着いて見てみると細かい情報が入ってくるということは我々中小印刷業界にとってきめ細かい情報を活用できるメリットがある社会が来たというようにも考えられるのではないか。これから一つ一つの情報をプラスに捉えてチャレンジして行きたいと思う。新しいITのメディアがいろいろ出てきたが、ITと既存の我々のメディアが複合した複合メディアは出てきていない。例えば新聞を考えてほしい。11月の広告は前年比87%だとも聞いているので確かに厳しいが新聞は便利である。朝起きたときを考えてほしい。私なんか仮に寝ぼけ眼でパソコンつけたって、先ほどのようにコードが抜けていたら音が出ない。新聞は朝起きてポストから持ってくるとパッと開ける。このアクセスポイントが早いというのが今後大きなキーワードになると思う。パソコンを開くよりも朝起きて目を擦りながら新聞を持ってくれば情報が得られる。実はこれが大きなキーワードで我々印刷にも影響があると思う。そして新聞のアクセスポイントの速さ、そこにはチラシということもある。一方、無作為にチラシを撒くことは環境問題がある。これも大きな制約要因になると思う。それが制約要因だということはもう一つの軸ではまさにロングテールである。きめ細かい情報を持ったバリアブルとかONE TO ONEとかデジタル印刷とかそんな方向もある。それぞれをきちん社会の変化の中で選択をしていくという時代になってきたような気がする。

印刷産業のポジショニング
 私は印刷業界は素晴らしいポジショニングを持っていると思う。なぜかというと私は今、新聞はアクセスポイントが近いと言ったが、印刷営業は目茶苦茶アクセスポイントが近い。皆さん考えてみてほしい。我々はともすると受注産業と言われてきた。今まではお客さんがそれだけしか求めなかったから受注産業で大いに結構であったと思う。印刷会社にはきちんと指示をしてお客様から与えられたものを与えられた範囲できちんと作って応えるというのが印刷の基本であった。勿論それも変わらない部分はたくさんあると思うが、これが社会の変化でお客様が今一歩印刷会社にいろいろなことを求め始めている。この変化に皆さん一緒に気付きましょう。お客様がなぜ変化を印刷業界に求めているか。お客様が分からなくなってしまったからである。今までは分からないことはお客様に聞けば良かった。そうしたら教えてくれた。ところが大変化をしているのは印刷業界だけでなく全ての社会が影響を受けているからお客様も分からない。だからパソコンよりこんにちは毎度とお客様の隣に行く、アクセスポイントの近いこんな営業を上手く使わなければ損ではないか。重要なのは従来とは少しスタンスを変えて、お客様のところに行って愚痴を聞くのもいい。野球の話もいい。日本ハムの話を聞くのも大いに結構だが、話を聞いて愚痴を聞いて帰ってきてはいけない。その愚痴の中にお客様の次の悩みがあるわけだから、その悩みを聞いて悩みを少しアドバイスをする。これは大変である。少ししか違わないが今までは悩みを聞いて帰ってくるだけ、今度は悩みを聞いてその悩みをどうやって仕事にしようか考える。それは皆さん各者各様なのでただ帰ってきてはいけない。営業マンがきちんと悩みを聞いて帰ってきて真剣に頭を使って次のプレゼンをどうするか、これだけである。私はマーケティングの基本はこれだけだと思う。悩みを聞いて悩みの中から問題点を見出して解決する。印刷はこんなに素晴らしいポジションを持っている。私は皆さんが活用したら印刷産業は素晴らしい産業になって行くのではないかと思っている。今Web2.0の話を続けているが、コンピュータ化がますます進んでいく。IT化がますます進んで行く。最後はどういう社会になるのか。コンピュータが求めるものの究極というのは効率化である。でも皆さん大丈夫、私たちは人間ではないですか。効率だけで生きられるものではない。最後は人間性という心、ハートという部分の感性が必要である。だからいくらコンピュータが進んでも進めば進むほど逆に人間の感性が大切になる。人間の感性を作っていくのが印刷物である。私はコンピュータ化社会にも印刷産業というのは十分残っていくだろうと思う。ただ従来と違う大きな変化が出てきていると思う。もう一つ、今、世の中でネットで購買する人も大変増えて来た。しかし電通のデータを見ると購買の80%は店頭で買っている。昔からAIDMAという法則がある。私も若い頃覚えた。ATTENTION、INTEREST、DEZIRE、MEMORY、ACTION。最初にあっいいなあとATTENNTION認知して、MEMORYE記憶して、最後にACTION買わなければいけない。それが最近AISASというワードに変わってきた。ATTENNTION、INTEREST、次SEARCHIなってきた。どういうことかというと購買の80%は店頭である。だからそこだけとれば印刷物の価値はますます需要である。これだけネット社会が進んでも一般の社会の皆さんは80%が店頭で買う。そうしたら店頭で買うためのパッケージの差別化もチラシもPOPもますます印刷物の重要性は増す。ただ従来と違うのは間にSEARCHという言葉、検索という言葉が入って、メディアがパソコンとまさにクロスメディアになっている。パソコンで見て検索をして店頭に行ってACTION、逆に店頭で物をしっかり見て最後はパソコンで買う。どちらにしろ店頭がある。リアルなものは重要である。だからこう見ても印刷は大丈夫だと思っている。そして社会の変化の中で、変化に対応するためには努力が要る。よく業態変革は難しいという話を聞くが、難しいかといったら確かに難しいと思う。その難しいというのは言葉の使い方があると思う。読まないうちに難しいといわれるのが一番困る。まず読んでほしい。読んで難しかったらもう一度読んでほしい。仲間が作った本なのでそんなに難しいことはなく、後で説明をするが当たり前のことを当たり前に書いてある。是非読んでほしい。実行するのは難しい。これは本当に難しいと思う。しかし、先ほども言ったITの社会、大変化の中でどうするのか。他所を向くのか。正面から戦うのか。会社は永続しなければいけないのだから戦いましょう。そのためには是非読んでいただきたい。どうしても分からなければいつでも電話をください。こちらも分からないが一緒に悩んで勉強しようではありませんか。結論はこれを読んでいただければ全て終わる。結論は是非読んでほしい。
日本の人口の変化

 印刷は社会の変化の影響を受ける。どういう社会の変化があるか見てみたい。大きな3つの変化があり、1996年位が一つのピークである。若年層が減ってきた。所謂労働人口が減ってきた。若年層が減って来たから雑誌を読まなくなった。結果的には印刷雑誌が売れなくなったというように印刷と人口の変化が結びついている。一番大きな変化は2005年である。2005年に人口が減り始めた。人口が減れば出生率が減っているわけだから子供も減る。教科書も要らない。絵本も減る。一方アメリカは毎年230万人の人口が増えている。4分の3が出生、4分の1が移民。そうすると教科書は増えている。やはり人口は増やさなければいけない。人口が増えれば黙っていても印刷物は増えるような気がする。このままいくと2015年には世帯数が減ってくる。これは大変である。そうすると家も要らなくなる、家具も要らなくなる。我々もこういう変化の影響を受ける可能性があるということで見てほしい。

印刷産業の推移

 次に印刷産業の流れを見てみたいと思う。印刷産業の売上げの推移である。飛び出ているのが1991年で、まさにバブルのときである。皆さんあのときに戻りたいと思いませんか。91年まで坂を上がって行く角度の急なこと。我社でも91年までは伸びた。何でこんなに売上げが伸びたというくらい嬉しかった。まさに業界として見てもそういう数値があって91年に一つの大きなピークあった。8兆9千億円が最大のピークである。それから残念ながら92年、93年、94年と坂を下ってきた。ここが我々の厳しいところであった。丁度印刷業界のデジタル化が始まったときに、一方において我々の売上げが落ちる。そしてこのときの社会の環境を思い出してほしい。携帯電話の普及が始まった。ネットの普及も始まった。そして新聞の購読世帯数が減ってきた。出版も不況だ。紙不況と叫ばれたのがこんな時である。そして95年から少し上がったが、95年もある意味では我々にとって大きな変化だと思う。Windows95が出た年である。私はこのとき気づかなかったが、この95年というのはまさに我々プロとアマチュアの差がなくなった。Windows95を机の上に置いたサラリーマンはいつの間にかプリンターに繋いでサラリーマンが皆印刷屋になってしまった。考えてみるとこんな変化があった。だから我々はプロとアマの差を明確にしなければいけない。きちんとしたプロとしてのものを作らなければいけない。それのスタートが95年であったと思う。ただ出荷額は95年から96年は少し上がり、97年にもう1回8兆9千億円というピークを迎えた。しかし、その後は残念ながら右肩下がりである。売上げは右肩下がりであるが、印刷業界にはもう一つ大変不思議な数値がある。97年から印刷の売上げは下がってきたが、材料の出荷額をみると紙は16年間増えて来ている。インキも増えてきている。これはどういうことかというと、非常に残念ながらこれは我々の供給過剰と価格破壊である。仕事量は増えても価格は増えていない。仕事量が増えているということは紙からもインキからもある程度想像は付く。しかし、売上げが減っているということはとんでもない価格破壊が起きてきたような気がする。CTP化によって製版フイルムが減っている。これが私たちの業界の実態である。今どのくらいの売上げがあるかというと平成18年の工業統計によると6兆7,700億円となっている。ピークが8兆9千億円なので減ったという言い方もあるが、プラスに考えませんか。6兆7,700億円は我々がやっている。我社なんてその爪の先の先の見えないところくらいしかやっていない。印刷市場全体は6兆7,700億円もある。その中でまだまだ十分チャレンジできる産業ではないか。大きい産業だと思う。私たちの全印工連では経営動向調査を実施している。これも結構重要である。組合からは結構いい資料がでている。私もあまり見ていなかった。それを見ると結構ショッキングである。どのくらいの利益があるかということを見ると営業利益率が2004年から2005年にかけて0.5ポイント位落ちていて2.7%というのが、全印工連は7,000社あるがそのうちの500社のデータである。今回、値上げが相次いでいる。私も大変危惧をしているし、勿論他人事ではないし、我社も厳しい環境にある。値上げがどのように影響を受けるかというと、2005年の営業利益率が2.7%である。因みに全印工連の売上げに占める資材の割合は大体20%である。その20%のうち8割は紙であるので16%になる。今回仮に紙は10%上がった、インキも10%上がった、全ての資材が10%上がったとすると、売上げに占める資材の割合は20%であるので2%価格に転嫁しない限り利益が飛んでしまう。組合の500社のデータを見ても殆ど利益がなくなるということが推察される。全印工連としては基本的には全ての値上げに反対をする。今日は値上げの話に来たわけでなく業態変革の話に来たのだが、こういう現状の中できちんと我々のやるべきことがあると思う。ただただ反対ではなく、これだけ社会全体の中で全てのものが上がっている。ガソリンは150円を超えている。一方、身近な生活用紙のティッシュペーパーやトイレットペーパーが上がっている。これはお客様も知っている。お客様の担当者も分かっている。そうであれば印刷会社は資材の値上がった分をお客様に転嫁するのは当然のことではないだろうか。逆にお客様に黙っていたらお前のところは余ほど儲かっているのではないかと思われるのではないか。組合は全力をあげて価格が上がらない努力をするが、是非、皆さんは個別にきちんと上がったものを転嫁する努力をする。それが組合員の仲間のモラルであり、職務でないかと思う。そのために組合ができることは、できる限りきめ細かくメーカーの値上げ要請、値上げの内容、理由について皆さんに資料をお送りする。今までも何度となく届けたと思うがこれからもそういうものがあればできる限りリアルタイムに届けるので活用してほしい。これが厳しいが現状である。それから皆さんは普段はなかなか組合という意識はないと思うが、私たちは全印工連という仲間である。日本には印刷は10団体ある。10団体の中で去年の1月のデータであるが、全印工連が61%を占めていて圧倒的に大きい。これからも前向きにこのパワーを活用していこうではありませんか。こんなイメージが皆さんの所属する全印工連のイメージである。

会社が無くなる

 業態変革をするには自社の危機意識を持たなくてはなかなか変革が出来ないと思う。勿論、経営者一人だけの危機意識では全くできない。それをどうやって社員の皆さんと共有化するか。それが大切だと思う。明日、皆さんの会社が無くなると考えたことがありますか。私もふと思うときがある。無くなってしまったらどうなるのだろう。本当に誰が困るのだろうか。仮に我社が無くなっても困るお客様はいるのか。2週間くらいは困ってくれるかも知れない。しかし現実的には代わりの印刷会社はいくらでもある。本当にこのままで変化の中で何もしないでいったならば多分ピンチヒッターはいくらでもあると思う。本当に待ったなしの危機感というのがあるので、欧州の話を2つして、その後に去年アメリカに2回行ったのでアメリカの事例の話をする。この欧米の事例は既に何回か話をさせてもらっているので聞いた方がいるかも知れない。

ドイツの印刷

 まずドイツに行った。印刷が厳しいのは日本だけではない。ドイツも2001年にITバブルが崩壊して印刷も落ち込んだ。さらにドイツには付加価値税という日本でいう消費税のようなものがあり、それが19%である。これがドイツの大変な実情である。もはや印刷のパイは大きくならない。この小さなパイの取り合いである。因みにドイツにどれだけの印刷会社があるかというと数年前までは13,000社あったが、今は10,500社、数年後には7,000になるだろうと言われている。こんな現状である。印刷というのは非常に中小企業性が高い。ドイツも95%が10人以下である。我々も中小企業である。将来ともどもドイツでも皆んな中小企業で頑張っている。アメリカもなんと64%が10人以下である。日本となんら変わらない。その中でも頑張っているところがある。さらにドイツは国境が繋がっている。日本は海しかなく国境がない。丁度ミュンヘンの印刷会社に行ったときであるが、ミュンヘンはドイツでも南の方の都市でミュンヘン、サッポロ、なんとかと昔からビールが旨いところである。ビールが美味しいだけでなく困ってしまうのは隣の国が近いことである。車で2時間半走るとチェコに行く。そうすると給料が4分の1になるそうである。今、国境というのは何もない。線も引いていないし検問所もない。EUなのでそのまま越えて行くと隣の国に行ってしまう。そうすると人件費が4分の1である。それをどうしているのかミュンヘンの経営者と話をした。確かにこれは重要だと思う。札幌という地域は、私は東京なので正直言ってよくわからない。より良いサービスが提供できれば印刷会社の立地は大した問題ではない。特にヨーロッパの場合は国じゅうが繋がっているから何処にあっても関係がないと言い切れる強さがあった。ただ、2時間半で4分の1の賃金の現実があるので、このように言っていた。1週間の納期のあるものは隣のチェコに出す。しかし、1週間の納期のある印刷物は殆どない。だから2〜3日でやるものはチェコでは出来ないからそれを自社でやるようにして、そして今まで1週間でやっていたものを2〜3日でできるようにシステム化をしているということである。賃金が4分の1の国が隣にあってもシステム化して2〜3日にすればスピードというキーワードの中で十分対応できている。大きなキーワードではないか。

イギリスの印刷

 もう一つはイギリスである。イギリスも今大変な状態に陥っている。日本でも始まっているがプリントマネジメント会社が出来てきた。プリントマネジメント会社というのはブローカーとは違う。お客様の全ての印刷物を纏めて一括で受注する。全部受け、その代わり3年間で30%コストダウンをするというような非常に荒っぽいビジネスをするわけである。荒っぽいがきちんとやるためのそこには透明性ということがある。ブローカーが決して不透明とは言わないが、相当なプロジェクトを作って大きい仕事を全て纏めて受ける。その結果、なかなか正しい数値はつかめないが既にオールイングランドの半分がプリントマネジメント会社だと言われている。印刷会社は大きな選択を今、迫られている。イギリスでは、プリントマネジメント会社の下に入るのか、自らがプリントマネジメント会社をやるのか大きく2つに分かれている。ある会社はもう営業を置きたくないからプリントマネジメント会社の下で仕事をどんどん流してもらえればいいという経営者もいた。また兎に角プリントマネジメント会社と戦っていく。まさに全印工連でいうワンストップサービスをやり続けるという意志を持った経営者と大きく2つに分かれている。これがイギリスの実情である。経営者は大きな決断を迫られている。我々はまだこんな決断を迫られていないと思う。

アメリカの印刷

 今一番ビジネスモデルとして面白いのはアメリカではないかと思う。やはりアメリカは進んでいると思う。昨年、アメリカは短期間行ったのも含めると3回、一昨年は2回行ってきた。社会は何を印刷会社に求めているのだろうか。アメリカという国は社会が大きく変革しているので印刷会社に求めるものも変わってきている。これを求めるという具体的なものはない。社会の変革とともに印刷会社が求められるものも変わっているから変わって行かなければならない。社会の変革を本当に乗り切って将来存続できるのは3%しかないという厳しい議論をされる方もいた。どんなことに対応すればいいのか。社会の変化に対応するために日本の業態変革と同じである、アグレッシブルなビジネススタイル、要するに受身では駄目である。私たちの業態変革も第1ステージがまさにそうである。業態変革という言葉が変化ではない。変革である。変化と変革は違う。世の中の流れの中で一緒にふらふらとついていくのが変化である。変革というのは自らの意志で変えていく。まさにこれは日本もアメリカも同じである。アグレッシブルに変革をしていこう。それからやはりパートナーシップ、我々はどうもコラボレーションが上手くない業界である。是非このへんはアメリカを見習わなくてはいけない。アメリカはM&Aも進んでいる。日本ではなかなか馴染まないネットワーキングであるが、ネットを使ったビジネスは避けて通れない。ネットを上手く活用しようということでネットワーキングである。それからもう一つ重要なことはコンプライアンス。北海道でも白い何とか、赤い何とかとかあちらこちらでいろいろと問題が起きた。これからはコンプライアンス違反ということは避けて通れない。印刷業でも環境問題と同時にコンプライアンスということも需要である。これを達成した会社はアメリカでも残れるという強いメッセージである。

You are the Printer!?

 去年の6月に行ったレポートを纏めたものを簡単に話をする。You are the Printer!?と社員が書いてくれた。印刷会社に行ったが非常にショッキングであった。全部印刷会社に行ったはずなのだが、経営者が全部横文字で答える。当たり前である。アメリカ人だから横文字に決まっているのだが、是非、我々が見習わなくてはいけないことはここである。自社のドメインは何かと書いてあるが、ドメインでなくていい。あなたの会社の強みは何か。一言で答えられるようにしよう。言っている私ができないが、是非、自社の得意技は何かを答えられるようにしよう。これが印刷会社の第一歩だと思う。何でもできるではやはりまずい。何でも出来るはひっくり返すと何もできないになってしまう。去年の6月はフルサービスプロバイダーであった。格好いいですよね。私も帰ってきてから、真似をして我社のコアコンピタンスは、我社のドメインは、我社の強みは、フルサービスプロバイダーを使おうかと思ったが、使わなくて良かった。デジタルプリントソリューション、トレードプリンター、グラフィックソリューションプロバイダー、マーケテッィングサービスプロバイダー、シーズナルビジネス、シーズナルビジネスというのは非常に分かり易い。我社はカード会社である。カードを作っているからシーズナルビジネスである。何処にも行っても経営者は明確にお宅の強みは何かかというとポンと答えてくれる。それが何処にも印刷が出てこなかった。これに去年の6月もの凄いショックを受けた。

勝ち残りはオートメーション

 ところが秋になって大きく変わった。6月には旧態依然とした営業スタイルはもうアメリカでは終わってしまったのか、一体どうすればいいのか、営業マンのあり方はどうすればいいのかと思った。1社訪問してもほんの僅かな時間で、それも私は日本語しかしゃべれないわけだから通訳を介して話を聞いてもなかなか理解できない。さすがに回数を重ねているうちに少しずつ相手が本音を言ってくれるようになった。ある会社では我社は本当にマーケティングマインドを持った営業は20%しかいない。残りの8割は配置転換や転職を奨めている。一方において格好のいいことを言いながらトータルソリューションプロバイダーといいながら、全員がその会社でも対応できるわけではないという現実の厳しいことを言うわけである。印刷に詳しい営業よりもマーケティングに詳しい人を最初から採って教育した方が早いという会社もあった。本当にどういう方向に持っていこうか非常に悩んだ。新しい得意先を攻めるときにはどうしたらよいか。どのように攻めるのかと質問すると、総務とか購買とか要するに我々が普通に行っている窓口はもう駄目である。アメリカでもこういうことを言う。我々もそうである。そこはもう価格しか出てこない。いくら行っても駄目である。一方においてルーペを持って来る担当者のところになんか行っても駄目である。これからはマーケティングである。新しいチャレンジをする。大切なのはROI。是非これを覚えいただきたい。販売効果が大切である。印刷会社は印刷を売るだけでは駄目である、お客様は印刷物がほしいわけではない。これが全ての原点である。印刷物を使ってエンドユーザーにお客様が撒いてその結果売上げが増えなくてはいけない。印刷物がほしいわけでないから、印刷物を使って売上げが増える、増えなければ印刷物の意味がないわけである。印刷会社はそこを根本的に勘違いしてきている。これをROIという。販売促進効果ということも少しはお手伝いしないといけない。このように随分我々も変えて行かなければならないということを実感した。広告代理店との関係もそうである。日本とアメリカでは広告代理店のイメージがかなり違って、アメリカは日本以上に印刷の上にもっと大きく広告代理店の重しが乗っている。基本的には広告代理店がイニシアティブをとってそこの下を印刷会社が受けるというイメージが大きいようである。ところがWEB TO PRINTまさにネットワークになってきたら広告代理店がいらなくなってきた。逆に印刷会社が強くなる可能性が出てきた。これも面白い変化だと感じた。そういう対応をしていく中でどうやったら勝ち残れるのだろうか。勝ち残りのパターンというのはアメリカのキーワードとして非常に面白かったのは、最後の勝ち残りのキーワードの一つはオートメーションである。オートメーションなんて古いと思いませんか。ずうっと昔からオートメーションではないですか。それを行く会社、行く会社が全てオートメーションというわけである。業界全体の売上げが落ちているのに資材が伸びているということは価格破壊、そしてロットが細分化している。ロットが細分化したらどうなるか。非常に手間を喰って効率が落ちる。日本もアメリカも同じである。ロットが細分化して手間を喰って大変になっている。だから自動化して人手を省くところはオートメーション化しようというのがアメリカである。これは我々も見習わなくはならない。やはりこれからは効率である。先ほどIT化社会の効率と言ったが、別な意味で自社の効率、コンピュータで出来るところはITに乗り換える。ITに乗り換えることによって効率化する。例えば、入稿の部分を自動化する。生産工程を自動化する。大げさなことを考えなくていい。一つずつ積み重ねてやることではないか。キーワードはアメリカではオートメーションであった。

印刷会社のプロモーション

 そして新しい印刷会社のモデルはどのように作るものか。自社のプロモーションが全ての最初である。皆さんは自社をプロモーションしていますか。私もそうであるが、印刷会社はプロモーションをしないで済んだ。受注産業はメリットがある。来月も注文がくる。しかし、これからは自社の強みをお客様に訴え続けなければならない。ここは絶対強いから我社に任せてほしい。何が得意技かをお客様に訴え続けなければならない。私はこれが印刷会社が行き残っていく原点だと思う。自社の強みを訴えていく。これが自社のプロモーションをするということである。そしてニーズとウォンツ。お客様の要望に対応して良いサービスをする。一つ一つやっていけばいい。コンピュータでできることはコンピュータでやる。手でできることは手でやって、ワンストップサービス、内職をする、そうして手間を省いてお客様に満足を与える。そしてまた自社のプロモーションをする。まさにこれがワンストップサービスである。これから必要なことはエンドレスサービスである。ずうっとずうっとサービスをし続けるということを改めて感じる。アメリカでも同じである。もう単なる印刷屋さんでは駄目である。トータルしたものづくりのビジネスモデルを作らなければならない。印刷だけでは駄目である。お客様は印刷だけを求めているわけでないので、印刷物を作ってトータルしたものづくりをする。ワンストップサービスである。

ドメインは「対応性と俺」

 ここからは去年の12月にニューヨークに行った話である。大きく変わった。6月に行った時にはやけに横文字が多くてどうしようと思ったが、12月に行ったら英語で言っているので横文字であるが、言っていることはいたって泥臭い。
 最初に行ったアストリアという会社は、御社のドメインは何かと聞いたら、対応性と俺だという。日本経営者で自社のコアコンピタンスは、自社の強みは俺だと言える経営者はいるか。恥ずかしくてそんなことは言えない。この会社の社長は恥ずかしげも無く俺だ。中小企業はこれでいいのではないか。これはニューヨークの真只中にある会社である。元々はオフセットであったが、デジタルにして夜入稿して夜中に印刷製本して翌朝届けるというビジネスモデルを作って大変成功している。ニューヨークのマンハッタンの6ブロックという小さな地域には4,000社の印刷会社がある。因みに私たち全印工連は全国で7,000社、東京都印刷工業組合が1,700社、北海道印刷工業組合は300社である。6ブロックというのは300メートル四方くらいの小さなところでそこに4,000社もある。やっぱりアメリカは凄いと思う。印刷市場は20兆円ある。ところが地代が高いからオフィスだけを置いて、印刷機は外へ持っていくという会社が多いようである。この会社は兎に角お客様に対するサービスである、それはスピードと納期である。コストは二の次であるという羨ましい話を聞いた。夜中に原稿が来て夜中に印刷して製本して翌朝届ける。お客様の要求はスピードと納期である。お客様に対するスピードと納期という満足を満たす。得意先は金融機関である。金融機関は投資家に対して指示を送るという満足を満たしていく。ここはオンデマンド印刷を上手く使っていた。これを我々の業態変革に当てはめてみた。どのような業態変革をして生き残ったのだろうか。この会社は伝統的には商業印刷であった。それが業態変革をして金融サービスに対してまさに超短納期である。そんなビジネスモデルを作った。私たち印刷業界では浅野会長のもとで社会が変わった、スピードが変わったということで、今まで3日で良かったものが1日と言っていたがとんでもない、アメリカはJUST 10 MINUTESだという。俺だというくらいだから10分だという。このくらい言い切れる経営者は凄い。だから俺のところは強いんだ。コストなんか二の次だという感じであった。この会社はオフが落ち込んで賃料も高いからニューヨークで出来なくて、印刷工場は郊外に移した。そしてPODを入れて徹底して即時性を追及した。そして誰もがやれる印刷から脱却したいとお客様に啓蒙までしている。お客様のセミナーまでやって、デジタル印刷で夜来たものを翌朝に納品することを可能にした。こういう変化をしていくと古い営業マンには厳しい環境になったという。人材が足りないからマーケティング機能を補完している。そしてお客様からの評価はワンストップサービスであると言っていた。決してオフセットとデジタルは競合しない。両方が総合補完していくというのがこの社長の話であった。

応答率49%のDM
 次にここが面白かった。ニューヨーク郊外でバリアブル印刷機を入れているが、印刷機なんか入れても駄目だという。きちんとしたアイディアを持って入れなければ駄目だという。当たり前である。バリアブル印刷機を入れたからって仕事なんか来ない、きちんと何をやるかを決めてやらなければならないというのがこの会社のポリシーであった。この会社は小さな会社である。元々は出力センターであった。M&Aで買収され、今は子会社になりイーサンデーアレキサンダーという会社であるが親会社はTBCカラーである。親会社はデジタルを持っていなかったのでこの会社をデジタルセンターにした。経営者も自信を持っている。俺のところはここに買収されたが10%利益がでる。親会社なんて3%の利益しか出ていない。売上げは10倍あるが俺のところの方がよっぽど立派だ。M&Aをされた側がこんな自信を持っているということも凄いことである。これも業態変革に当てはめてみると元々のDTP出力センターが親会社のデジタル部門に変化をした。元々は製版会社、ザービスビューローであったのでデジタルのノウハウが生きた。そして親会社がデジタル化を急いだので一緒に仲間になった。パーソナリーゼーションがこのところ受けている。応答率というのは非常に重要である。DMはただ納めてはいけない。納めた応答率をきちんと確認して次のビジネスに繋げなければならない。応答率が49%のDMがある。私は応答率が49%のDMなんて始めて聞いた。お化けみたいなものである。現物を欲しいと言ったがくれなかったのでできるかぎりきめ細かく写真を撮ってきた。ここの会社もデジタル化していったので営業マンの頭の切り替えが大変であったと言っていた。49%の応答率があったDMは封筒に入っている。手紙があり、クーポン券が付いている至って簡単なものである。これはバリアブル印刷ではない。私は単なるおまけのアイディアだと思う。ここには名刺がついている。ベライゾンの一番近いショップの店長の名刺を付けて、この名刺が剥がせるようになっていて、わざと手書きっぽく書いてある。OUT20%OFFアクセサリーと書いてある。多分この名刺を持ってくればアクセサリーを20%引きにしてあげるということだと思う。ベライゾンというのは大きな携帯電話のショップのようである。クーポンが11枚に切ってあり、これをちぎって友達のところに持っていって、友達がクーポンをもって携帯電話を買ってくれると25ドルペイバックをしてくれる。11枚全部を使って友達が買ってくれると275ドルのボーナスが入る。そうしたら何と応答率が49%である。別にこれはオンデマンドなんていらない。こんなこともお客さんに提案していったらどうか。強いて何がオンデマンドかというと、ちぎって持っていく小さいものが誰から来たか分からないといけないので最初に送ったこの人の携帯番号をここに刷り込んであるという意味でオンデマンドになっている。この会社も6月と違って横文字でない。御社のコアコンピタンスは何かと聞くとWE NEVER SEY CAN NOT。できないと言わない。英語だと格好いい。御社のコアコンピタンスは何ですか。日本語では出来ないと言わない。何でもできると同じになってしまう。バリアブルはアイディアであるというように言っていた。
アメリカの印刷組織

 アメリカのPIAという組織の話をする。私たちは全印工連である。アメリカにはPIAという組織がある。アメリカは、印刷会社は60,000社あったが10年で20,000社に減った。厳しいのは日本だけではない。アメリカも厳しい。この現実のなかでアメリカのPIAへ行ってきた。凄い山の中にあり、日本の全印工連は新富町という効率のいいところで助かっている。北海道の皆さんには遠くて申し訳ないが、イメージだと北海道という感じである。ピッツバーグという製鉄の町の山の中にポツンと立っている。ニューヨークから行くのは本当に大変であった。会員は12,000社、従業員は90人、違うのはトップが若いことである。マイケルマーキン氏がトップで44歳、オールアメリカントップが44歳である。我々も若返っていく必要がある。彼のキーは多様性と付加価値サービスである。この多様性は先ほど言った何でもできるは何もできないではない。印刷というのはいろいろなたくさんの品目がある。それぞれの品目の中で自社の競争力のある品目、それぞれの品目の中で自社の独自性のある品目、自社の専門性のある品目、そういう専門性を持とうという多様性である。何でもできるということではない。そういうそれぞれの得意技の品目をいくつか持つことである。たくさん持たなくてもいい、最初は1個でもいい。そして高付加価値サービスを提供していこうではありませんか。実は組合の経費構造も非常に気になっている。全印工連は約50%が会費収入で、あと50%が事業収入である。PIAは会費収入は15%で、あと85%は何かを教えてくれない。若干グレーなところがある。何がグレーかというと企業が賛助会員として入っている。これは我々も将来考えなくてはいけないと思うが、ボードメンバーが37人いて、メーカーが4人、多分トップの4社位の企業はボードメンバーに入っている。相当賛助会員が入っている。さらに賛助会員のなかには、例えばゼロックスの機器を売ればゼロックスからキックバックがあるとか、アドビのソフトは15%優待割引とかをするところがあると思う。我々もこれは考えていかなければならない組合構造だと思っている。アメリカのトップはもの凄く格好いい。言うことも格好いい。しかし今回はあまり格好良くなかった。現実は厳しいという。アメリカの印刷会社は、1番にお客様からの時間短縮とコスト削減の要求に応じられない会社は残念ながら退場して行かざるを得ない。印刷会社同士の競争も厳しい。毎月340台の印刷機が減っている。20,000社の3割はデジタル印刷で生き残る、3割はM&Aで生き残る、残った3割は10%以上利益を上げる会社である。3〜4%程度の利益では負け組である。3〜4%の利益では人件費、エネルギーコストの上昇を吸収できない。印刷産業自体の将来が不安なので新しい投資をしなかった。来年は印刷産業が2〜3%の成長を予測する。PIAのメンバーも減っている。アメリカも同じであり、親近感が沸いてきた。

New Media Off Print

 もはや印刷という産業カテゴリーは存在しない。怖い感じがする。これは誰が言っているのかというとロチェスター工科大学の女性の主任教授である。印刷を複合産業化させようという意識で取り組む凄い熱意を感じた。新しい複合メディアの中の印刷人を育てようというロチェスター工科大学の意気込みを真剣に感じた。キーはニューメディアオブプリントと言っていた。これはもうメディアでいいそうである。新しい印刷をメディアとして捉えていく、そしてここは変化に対応できる人材を育成していこう、そして人材が新しい印刷のカテゴリーを作る、こんなイメージがアメリカのロチェスター工科大学であった。 アメリカでも営業第一という会社もあった。実に泥臭くていいと思う。また、スィンクデイファレトという会社がある。他所と同じことをやっていては駄目、他所と違うことを考えようという会社である。当たり前ことである。今回、アメリカに行って当たり前のことを当たり前にやっているので凄くびっくりした。

Return On Investment

 こういう大変化の中で、われわれは一体何ができるのだろうか。我々のできることは一体何だろうかを考えてみたいと思う。我々はお客様に選ばれる会社になる。それはいつも言うが決して規模の大小ではないはずである。規模が大きいから選ばれるということは絶対にないと思う。お客様に最適なものを提供している会社が選ばれる。これが全ての原点である。我々組合員は所詮他産業から見れば中小企業である。多少人数の多い少ないはあるが規模の大小は関係ない。私は皆同じだと思う。ダイレクトメールを例にとって考えて見る。従来はただダイレクトメールを印刷するだけ、少し素晴らしいデザインをすればよかった、何となくこれで満足感があった。でもこれで本当に顧客の満足は得られるのか。今までは得られた。今はダイレクトメールをきれいなデザインで印刷するだけでは得られない。なぜなのだろう。ROI。ダイレクトメールのメリットが本当にあるか考えてみないといけない。例えば美容室でこのところ客が減ったのでダイレクトメールを打ちたい。それでは1,000枚打とう。仮に印刷代10万円、デザイン代が5万円、郵送代が50円で1,000枚で50,000円で20万円になる。20万円で素晴らしいデザインのDMを作り送る。今まではそれで終わった。でも20万円を美容室が払うことは大変なことである。私たちの役目はそのDMを作ることだろうか。違う。その20万円を使った美容室に20万円をどうやって回収できるDMを作るか、例えば美容室の1人の単価が5,000円だとすると40人の新規のお客さんが来ると丁度20万円になる。だからそのダイレクトメールを作ったら何としても41人来てもらわなければならない。そこでビジネスが成り立つ。41人来るダイレクトメールを作るのが我々の役目である。そのためにはどうすればいいのか。例えば、その美容室は従来若い女性だけであった、どうも客層が伸びない、どうしようか戦略を一緒に考える。それでは若い女性だけでなく女性の年齢層を全部に広げませんか。こんな戦略もあるかもしれない。思い切って男性も呼んでみませんか。そんな戦略もあるかもしれない。そうすると誰に送るのか、自ずと送るリストも決まる。女性だったものを男性にすれば男性のリストに送る。そして目的とかポジションとか、オファー、特典を考える。なるべく来てほしいから来てくれた人にシャンプーを1本付けよう。100円位でシャンプーは買えるではないか。そしてベネフィット、うちの美容室にきてくれたら髪が1カ月間しなやかになります。こんなことを一つ一つ並べないで印刷会社は、直ぐに体裁、サイズから入ってしまう。だから続かない。1回きりで終わってしまう。お客様と本気で考えて、そのDMが直ぐに読んでもらえ、捨てられてはいけない。そして来てもらわなければいけない。そんなことは一緒に考えられるのではないか。こんなことがマーケティングの基礎のような気がしてならない。まだ続きます。1,000通の宛名を書くのも大変である。皆さんの会社のプリンターで出してあげたらいい。データベースにする。そして重要なことは戻ってきたハガキ、来たお客さんをきちんと整理してどういう評価があったかを見て次に提案する。1,000枚のダイレクトメールもただ印刷をするだけでない。先ほどアメリカのPIAのマイケルマーキン氏の話をした。彼はこう言っている。印刷だけをすると1ドル、その下には付帯サービスが6〜7ドルぶら下がっている。トータルしてそれを印刷付帯サービス、我々はワンストップワービスという。一つの仕事で不毛な戦いをしなくても既存の中にもいくらでもビジネスを拡大できるチャンスがある。これがワンストップサービスだと思う。

業態変革 第2ステージ

 業態変革は3つのステージがあるが第2ステージから説明をする。第2ステージは原点回帰というステージである。1番から7番まで7つのキーがある。7つのキーで自社をきちんと見てほしい。7つのキーで自社のポジションを明確にする。自社の強み弱みを明確に見てほしい。そしてそこで初めて戦略が立つわけである。うちの会社はここが弱いからここを強くしよう、全部を強くしていこう。それぞれの会社の戦略を立てる基に使ってほしい。ここに平成17年の新潟大会で247社に協力いただいたデータがある。他社と比較する必要は全くないが標準値として取らせてもらった。本来247社だと円形になるが、印刷の強み弱みが出てきた。何が弱いか。営業戦略がやっぱり弱い、コラボレーションも弱い、経営者の思いが弱いが明確になった。

業態変革 第3ステージ

 それで我々は次のステップに向かった。業態変革の第3ステージである。第3ステージをきめ細かく話をする。まず最初にお客様のファンになる。お客様も今真剣に悩んでいる。今まではお客様に聞けば分かったが、お客様が分からなくなってきている。だからお客様のファンになってお客様と真剣に話をしてお客様と同レベルの勉強をしなければ駄目である。我々は総力戦で戦わなければいけない。そしてお客様にアドバイスをする。そしてただ印刷物を納めるのでは駄目である。納めた印刷物をお客さんが使って、お客さんに利益がでた、新しいお客さんが創造できた。そうしなければいけない。そのための業態変革第3ステージのDoor1がお客様のことを真剣に考えるである。皆さん真剣に考えていますか。是非これを読んでください。読んだ方はまた読んでください。半年たったらまた読んでください。絶えずお客様の立場にたって考えていただきたい。印刷の発注は大変である。紙を紙屋さんに発注して、デザインはデザイナーに発注して、印刷は印刷会社に発注して、製本は製本会社に発注したら凄く大変だから、そこはワンストップサービスでいきませんか。お客さんの手間を省きませんか。御社に頼めば安心というようにしませんかというのが我々の基本である。繰り返すが、絶えずお客様の視点で考えていただきたい。そうすればお役に立つことができる。Door1がマーケティング志向である。印刷付帯サービスは、兎に角お客様のことを真剣に考えてトータルしてお役立ちするようにしよう。次に最初に話をしたように社会は大変化をしている。大変化を敵にしてはいけない。変化を見方にするのは大変だが、少なくても敵にしてはいけない。変化を敵にしないためには変化をきちんと認識しなければならない。いろいろなことを勉強しよう。全印工連から社会の変化の情報をたくさん発信するので是非皆さん一緒に勉強していこう。そして絶えず変化に対して鋭敏なセンサーを立てる。センサーを立てておかなければ自分だけが遅れるということになってしまうかもしれない。そして変化をするためには新たな創業をするような覚悟でチャレンジをしていかなければいけないと思う。例えば、経済産業省から出ている新産業創造戦略では7分野が伸びると言ってくれている。その中にコンテンツ、ビジネス支援サービス、ワンストップワービスがある。政府も折角伸びると言ってくれているのだから是非一緒にチャレンジをしませんか。いうまでもなく変化のあるところにチャンスがある。是非、ポジティブに捉えてチャンスを作っていこうではありませんか。

感性はITを越える

 そして次にお客様のファンになって社会の変化を知って、次に需要なことはライバルはもはや同業ではない。同業の仲間と不毛な価格競争をしていてもそこに何の付加価値も生まれて来ない。新たなライバルは社会の変化や技術の進歩である。そのためには競争力を高めなければならない。デジタルを是非味方にしよう。ある意味ではITの敵はITである。パソコン買ってもどんどん進歩して半年経ったら新しいパソコンを買うからITの敵はITだともいえる。我々も味方にしなければいけない。ITを敵にしては駄目である。そのためには研究をしよう。社会の変化、技術の変化を勉強していかなければならない。それぞれの印刷会社はいいクライアントを持っている。是非そのいいクライアントに経営資源を集中して投下していこうではありませんか。ライバルを味方にして効率のいい経営をしよう。これが競争力を付ける3つめのDoorである。そして我々がこだわっているのは最初にも話をしたITである。ただ効率化を追いかけるだけか。我々は人間である。感性はITを超えることが必ずできる。ただもっと強くなるためにはITを使いこなさなくてはならない。今までは社内にパソコンを置いただけでIT化ができたが、これからは社内にパソコンを置いただけではできない。パソコンとパソコンを繋げる。例えばお客様と繋げて受発注をするというようなことがこれからのITのあり方だと思う。印刷にとってのITとは新しい仕事を取る仕組み作りだと思う。IT化というのはお客様にとっても自分にとって仕事の効率がアップすることだと思う。そのためにはどんな武器が必要か、独自力という武器が必要である。今までは武器を持たないで戦ってきた。これからは武器を持たなくてはいけない。その武器はまさに独自力、自信をもってお客様に提供できる品目を持たなくてはいけない。そのためには自社で全部は出来ない。これだけ素晴らしい仲間がいるわけだから是非パートナーを組んでいきたいと思う。言うまでも無く私たちは紙にインキを載せる載せ屋である。単なる載せ屋では差別化は出来ない。紙の上にインキを載せてもう一層何かを載せなければならない。それが独自力ではないか。印刷物に独自力を乗せてお客様の収益が上がったということが顧客満足に繋がると思う。独自性という武器を持てばお客様が選んでくれるはずである。皆さん選ばれる会社になろう。独自性を発揮するとこんなことができると思う。我々は今まではともするとお客様のところでペコペコと頭を下げるそんな思いをしてきた。独自性を持てばお客様が仕事を頼みに来る。自信を持っていけるような営業を皆さんやろうではないですか。

ワンストップサービス

 そして最後が新創業への戦略としてワンストップサービスである。ワンストップサービスというのはただ印刷をするだけでなく、付帯サービスを行う。サービスは無形なのでいろいろなサービスがある。それぞれの会社で1品ごとにワンストップサービスがあると思う。形はないが、お客様が望んでいる。社会全体でワンストップサービスをやってくれと望んでいるのだから是非ワンストップサービスを実行しようではありませんか。メディアミックスもフルフィルメントも、そしてお客様にとっても我々にとっても手間がかからないその仕組みを作る。これがワンストップサービスである。ワンストップサービスは特別難しいことではない。今始まったことでもない。考えてみれば百貨店がワンストップサービスであった。百貨店に行けば何でも揃う、しかし、百貨店も今は変わった。百貨店からコスト軸を詰めたらスーパーになり、時間軸を詰めたらコンビニになってきた。我々だってできるはずである。是非、印刷業もワンストップサービスを目指そうではありませんか。そして組合ができることは、我々は同じ仲間であるので一緒に勉強することだと思う。もはや従来の護送船団というバスは走り去ってしまった。組合が提供するのはロードマップである。これを活用するかどうかは皆さん自身の判断である。運転するのは皆さんの自家用車である。皆さんがガソリンを入れて皆さんがロードマップを見ながら前進していただきたい。たまには後ろを振り返っていただきたい。そんなことだと思う。我々は第1ステージ、第2ステージ、第3ステージと3つのロードマップを使ってきた。ルートとゴールを決めるのは皆さんである。社内で共有化していただきたいと思う。

業態変革はエンドレス

 第1ステージ、第2ステージ、第3ステージとそれぞれのステージがある。前振りが長すぎたので第1ステージの説明をすることができなかったので読んでいただきたい。
 今日は第2ステージから入ったが、私たちは第1ステージ、第2ステーシ、第3ステージと順番どおりやる必要は全くないと思っている。それぞれ皆様の会社の都合で、そしてこの項目も全て皆様の会社に合うわけがない。全印工連は7,000社あるのだから俺が会社の業態変革をしていただきたい。俺が村の業態変革でいいと思っている。所詮仲間が作ったものなので自社向きに直して皆さん向きに作って皆さんの会社でこれを共有していただきたいと思う。残念ながらこれをやったら完全だという魔法の杖は見つからない。魔法の杖があったら、私は多分今日ここに来ない。皆んなで一緒にこれから魔法の杖を見つけなければならない。これは一緒に勉強することだと思う。その前提として先ず業態変革2008プランを読んでいただきたい。特に第3ステージはYESかNOかで答えるだけである。5つのDoorを開けてみてほしいと思う。繰り返すが、3つのステージどこからでもいい。回し続けて、我々の会社が永続するために、そして印刷業界のさらなる価値の向上を目指して頑張っていこうではありませんか。くどいがゴールは皆さん自身が決めなくてはならない。そのためには実行あるのみだと思う。そして業態変革はさらにつづいていく。


BACK