「国家の品格」に続いて「女性の品格」という本も売れているという。「品格」という言葉で迫られると、なにやら脅迫されている感じがするが、「印刷人の品格」を問われるとどうであろうか。かつては、印刷というと暗い、汚い云々の3Kのイメージもあり、寅さん映画のタコ社長が経営する印刷屋はどうもウダツの上がらない貧乏商売に思われている。
昔の印刷屋さんは苦労して技術を身につけ、苦学して知識を高め、子弟の教育に熱心な人が多かったようである。街の印刷屋さんと呼ばれる人たちは、自分だけがよくなることを考えず、客のこと、社員のこと、同業者のことにも心を配っていた、と言う。こうした性向は今も健在である。
建設業界の談合、保険会社の保険金不払い、球団の不正スカウト、原発事故、鉄道事故etc.、儲けている会社や巨大産業の悪事はこの頃、しょっちゅう報道されるようになった。腐敗官吏が悪徳政治家とつるんで懐を肥やす事件も相変わらず減らない。
「どうも人間というのは生活に困っているあいだがいい。生活に困らなくなるとあさましいことを考えるようになる」と誰かが言っていたが、金のない印刷屋さんの多いこの業界は、今でもそれぞれの街づくりに率先して手を貸すし、文化・情報の担い手として世界中に根を張っているのは嬉しい限りである。
さて、悪徳でなく、人の好いのはいいこととして、我が業界は今「業態変革推進プラン―全印工連2008計画」後半戦にはいって「第3ステージ:新創業、ワンストップサービス」に取り組んでいる。きちんとした言語に不慣れな私にはとっつきにくい言葉の並びであるが、自分の言葉に置き換えてみると非常に明解で誰でもが取り組める内容であることが分かる。皆さんと一緒に自然体でこれらに向き合ってみたいと思う。
私たちは昔から地域・社会に融けこんで仕事をしてきた。だから、「社会」との関わりを大切にしたい。環境保全、障害者との共生、地域活性化への提言などである。そして「平和」への提言もあっていいと思う。我々は特定されない多くのお客様を持っているから政治に利用されそうな発言は差し控えなければならない。しかし、産業が栄え、人々の暮らしがよくなってきたのは60年以上も戦場に人を送らなかった成果と言ってよい。戦争に加担しないできたことをあらためて評価してもいいのではないかと思う。「品格」という言葉は乱発するものではないが、どんな場所にいても、どんな風に人間を大事に考えるか、どう社会に関わるか、そんなところに「品格」が表れるのではないかと思う。