印刷燦燦
「多文化・多様化社会は果たして
我が国でも可能であるか?」


副理事長、労務・環境委員長、釧根支部長
藤田 卓也
藤田印刷株式会社代表取締役社長

 昨年から準備を重ねて来た『聖霊たちのふるさと──オーストラリア・アボリジニ現代美術展釧路展』が、10月18日(土)〜11月13日(木)の会期で釧路市立美術館を会場に開催されている。
 オープニングセレモニーには、直前のブッシュ米国大統領来日と言う多忙の中、J・マッカーシー駐日オーストラリア連邦全権大使やJ・ナーシーブレイ在札幌領事など政府関係者、そしてコレクションオーナーであり豪州連邦の百貨店王B・マイヤー氏、さらにはクイーンズランドやヴィクトリア・メルボルンのそれぞれの美術館キュレーターなど、総勢13名もの招待客が来釧した。勿論、伊東良孝釧路市長をはじめとする市や支庁の行政幹部など錚々たる顔ぶれも参集され、祝辞が述べられた。
 過ぐる2000年のシドニー・オリンピックを契機に世界的に知られるようになったオーストラリア先住民アボリジニ。本展は、オーストラリア・アボリジニ・コミュニティーが生み出した絵画、彫刻、織物等を通してアボリジニの躍動感あふれる芸術文化を紹介する大規模な展覧会である。
 凡そ4万年前よりオーストラリア大陸に住み続けてきた砂漠の民アボリジニ。文字をもたない彼らの絵画芸術は、個人の表現であると同時に、長い伝統により培われてきた芸術創造、土地の権利を求めた政治闘争と連動した集団的表現でもあった。その人里離れたコミュニティー芸術は、より広い世界に向けて発せられたメッセージであり、世界の人々の関心を強くひきつけている。またその高質の抽象表現は、彼らの宗教感、精神世界、個人の歴史を鮮やかに描き出すとともに、古くから自然に根ざし独自の文化を築いてきたアイヌや、遥か縄文の人々の表現とも深く豊かに共振する。
 さらに本展覧会を通して先住民アボリジニに対する過去の歴史を反省し、新たな関係を築こうと努力を重ねる多民族多文化国家オーストラリアの現姿を知ることができる。そして環太平洋の隣人オーストラリア国民について、より豊かで深い理解をする契機となることと思う。
 会期中には、アボリジニ美術キュレーターによる北海道教育大学釧路校での美術レクチャーや、釧路公立大学での民博・小山名誉教授によるセミナー、そして嘉永3年(1850年)4月11日、現クラレンス市の捕鯨船イーモント号遭難と乗組員32名の救助以来、長くオーストラリアとの交流を続ける厚岸町ではアボリジニ映画の上映会も併催されるなど、盛り沢山のメニューが準備されている。
 オープニングでは白糠アイヌ文化保存会の伝承芸能やアボリジニの伝統楽器デイジュリドウの即興演奏も披露され、多文化・多言語で盛大に開会された。成功裡に会期が終了できることを切に願う此の頃である。